闇の王の即位を祝おうと各所から集まった賓客達が帰って後、城下には静けさが戻った。
落ち着きを取り戻した中、ベヌスは以前にも増して政務に取り組み、ノクトは良くそれを補佐した。 そんなある日、いつものように執務机に向かっていたベヌスはふと顔を上げ、傍らのノクトに切り出した。 「一つ、相談があるのだが」 「城下町への視察でしたら、この間も申し上げた通り反対です。兄上におかれましては、もう少しご自覚を……」 紋切り型の返答に一つため息をつくと、ベヌスは首を左右に振り、そうでは無い、と反論する。 驚いたように数度瞬いてから、ノクトは改めて答える。 「では、砦の視察でしょうか? でしたらなおさら……」 「……だから、そうでは無い。吾をどう思っているのだ? 」 やや不服そうに言うベヌスに対して、ノクトは表情を動かすことなく返答する。 「隙あらば政務を放り出して、城から飛び出したいと常々思っておられるのでは?」 「確かにそうだが……いや、今は違う」 まかりなりにも即位した以上、誠心誠意職務に取り組む所存だ、そう前置きしてから改めてベヌスは切り出す。 「……闇神の神格の事だ。吾は今、闇神と闇の王を兼ねているが、これは問題があると思う。ついては神格をそなたに譲りたいと常々思っていたのだ」 そもそも神格は便宜上アルタミラ殿から預かったに過ぎぬ。 そなたが立派に成人した今なら、異を唱える者もいないだろう。 そのベヌスの視線を受け止めかねて、ノクトは思わず顔を伏せる。 しばしの沈黙の後、ノクトは重い口を開いた。 「身に余るお言葉、うれしく思います。……が、謹んで辞退致したく……」 「何故だ? 闇の元に塵芥から産まれた存在という点では、そなたも吾も何ら変わりはないではないか」 「では、光神殿はどうなのです? 光の領域の民を、側近と共に治めているではありませんか。ともかく、自分はふさわしくはありません」